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コロナ禍における大手私鉄定期輸送人員の減少幅は、沿線住民の職業で明暗


 日本民営鉄道協会の発表によると、大手民鉄16社の2021年3月期(2020年4-2021年3月)の旅客輸送実績は、コロナウイルス感染症の影響による利用者の減少で旅客輸送実績は前年比30・2%減の73億2500万人となっています。内訳は定期利用者が26・7%減の45億8974万人、定期利用者以外が35・2%減の27億3564万人となっています。
 ここでは、定期輸送人員に焦点を絞り、「その減少が沿線住民の職業に大きく関わっているのではないか」という仮説について検証したものです
(2021年6月14日)


定期輸送人員は、関西に比べ関東の大手私鉄の落ち込みが大きく、東急、京王は33%の大幅減少!

 各社の定期利用者の2019年度からの増減率をみると、関東各鉄道会社の減少率が関西各鉄道会社に比べ大きくなっています。関東では、東急、京王、小田急が30%を越える大幅減少率となっている。それに対し、関西の各鉄道会社は、京阪が-20%台にのっているのみで、それ以外は、-10%台に留まっており、関東に比べかなり減少率が抑えられています。

【2020年度輸送人員の増減率】
京 急 京 王 京 成 小田急 西 武 東 急 東 武 相 鉄
定期外 -36.0 -32.5 -35.9 -32.8 -30.4 -29.6 -30.9 -28.5
定 期 -26.3 -33.4 -23.8 -30.5 -27.7 -33.7 -24.2 -23.4
合 計 -30.5 -33.0 -28.7 -31.4 -28.7 -32.1 -26.5 -25.2
阪 神 京 阪 阪 急 南 海 近鉄 名 鉄 西鉄 東京メトロ
定期外 -35.7 -37.7 -33.0 -37.9 -36.6 -40.3 -34.8 -40.3
定 期 -15.9 -20.3 -19.6 -17.1 -18.0 -17.6 -17.9 -29.8
合 計 -25.5 -29.0 -26.0 -25.6 -25.5 -24.8 -25.5 -34.2

 この定期輸送人員の減少率の幅の違いは、「テレワークをできる人、やりやすい職業の人が通常の定期利用者の中に高い比率で含まれている鉄道会社の減少率が当然のことながら高くなっている」のではないかと簡単に予想するところです。
 では、どのような職業が減少に影響を与えているのか、その沿線の職業構成比を今回確認してみました。<地図情報システムから各鉄道から1キロ圏内に含まれる15歳以上で就業者の職業(2015年国勢調査)の構成比を抽出 ※東京メトロは、沿線外の利用者多いことから分析から除いた。>

 居住する人で仕事に就いている従業者の職業の構成比を各社毎に見たものが下のグラフになります。


「A管理的職業従事者」「B専門的・技術的職業従事者 」「C事務従事者」の3つの職業は、テレワークがしやすい職業と言えます。一方で「D販売従事者」~「K運搬・清掃・包装等従事者」の各職業は、仕事場・勤務先に行かないと仕事が遂行できない、テレワークが出来ない・しにくい職業と言えます。
 このグラフから、定期輸送人員の大きな減少を招いた職業は一目にわかります。東急・京王は、テレワークをしやすいA~Cの職業の割合が高くなっています。


※脱線ですが、このグラフの数値は、鉄道沿線の就業者に限定された数値ですが、そもそも就業者の半分が、テレワークが出来ない職業で占められており、「政府の言う緊急事態宣言下でのテレワークの実施により7割削減って到底無理な話です。「総務省の国勢調査の調査室は、何のために調査しとるんですか?)

コロナ禍で利用が減少した職業は、「B専門的・技術的職業従事者 」「C事務従事者」か

 以下は、各核鉄道会社の沿線1キロ圏の就業者の職業構成比と定期の減少率を散布図にしたものです。

 強い相関がみられる職業は、「B専門的・技術的職業従事者 」「C事務従事者」が負の相関に、一方で「Eサービス職業従事者」「I輸送・機械運転従事者」「J建設・採掘従事者」「 K運搬・清掃・包装等従事者」が正の相関にとなっていることがわかります。
 「B専門的・技術的職業従事者 」と「C事務従事者」の構成比が高くなるにしたがって、定期輸送人員の減少率幅が高くなっていることが確認できます。逆に正の相関になっている職業は、定期輸送人員の減少幅を小さくしている、抑え込まれている可能性が高いと言えます。


    相関係数がそれぞれ0.6以上、-0.6以下の職業の構成比の合計で定期減少率との相関を見たものが下のグラフです。


 A~Cの「管理的職業従事者」「専門的・技術的職業従事者」「事務従事者」の 所謂ホワイトカラー系、E・H~Kの「サービス職業従事者」「輸送・機械運転従事者」「建設・採掘従事者」「 運搬・清掃・包装等従事者」の所謂ブルーカラー系ですが、正の相関、負の相関がきれいに見られます。

 
 今回のコロナによる定期輸送人員の減少幅の高低の要因は、「専門的・技術的職業従事者」を始めとしたホワイトカラーの構成比と「サービス職業従事者」を始めとしたブルーカラー系の職業の構成比のそれぞれの高低が影響を与えているようです。(当然と言えば、当然の、推測通りの結果です。)


  

<まとめ>
推測通り、定期輸送人員の減少幅の大小は、ホワイトカラー系の職業の人が利用している割合の高低が大きく影響し
 ている。東急、京王、小田急の減少幅の大きさは、この割合が高いことによる。
一方で、関西の鉄道沿線の居住者は、関東に比べブル-カラー系の職業の割合がやや高く、仕事場に出向かないと
 仕事が遂行できない人の割合が高く、減少幅が抑えられている。

 首都圏の23区の大ターミナルに繋がる鉄道会社、こんな安泰の企業はないと思っておりましたが、突然のコロナ禍は、まさかの大きな痛手となりました。ワクチン接種が国民の6割まで到達すると感染も収まるようなことを聞いています。秋口には、かなり回復する可能性もあります。(ちょっとまだ先ですが・・・※オリンピックで何も再拡大がなければ良いですが・・・。)
 

 テレワークの問題は、常時自宅でやっていると横の連帯感がなくなったり、会話の中でのアイデア・ヒント、アドバイスが少なくなる傾向があると思いますので、コロナ終息後には、電車を利用して勤務先への出勤する状態に徐々に戻るものと考えられます。
 しかし、今回積極的にテレワークを取り入れた企業は、賃貸面積を縮小した企業も見られたり、経費削減と働き方改革のために適度にテレワークを取り入れる企業もかなり出てきそうなので、現在の定期輸送人員の減少幅分が、以前の輸送人員数に戻るということは、ほぼないものを思われます。
  

 【鉄道会社今後の取り組み提案】
 
■ 沿線への企業・事業所、施設誘致の取り組み(東急の二子玉川への楽天誘致が見本) 
 ■ 人口誘致策の沿線市区町村との連携&「沿線街並み感」を売るつもりでの不動産事業
   (沿線への転入は、鉄道グループポイント30万ポイント提供など) 
 ■ 沿線観光マネジメントの強化(発掘・育成、交通提供、エリア間・施設間の回遊性UP補助、プラン提案力)
 ■ 沿線外観光PRや隣接線との相互観光PRの強化
 ■ ホワイトカラー系職業に対するレンタルオフィスの提供、販売マンションのレンタルオフィスの附帯設置
  (ホワイトカラーの多い沿線駅での設置)

 エリアマーケティングを行う際、人口ボリューム、年代、世帯人員、住居形態、労働人口などをよく利用しますが、それに加え、その地域の性質や質を説明する際に、国勢調査の職業分類を把握することは、エリアマーケティングの展開に重要な示唆を与えてくれます。是非ご利用していただきたいと思います。
  
(使用可能事例:鉄道沿線、駅、道路、バス停、河、店舗、施設、不動産立地判定)

※ブルーカラー系の職業は、一般的にホワイトカラー系に比べ、自家用車や勤務先バスなどの電車以外で通勤する傾向あります。電車をよく利用するホワイトカラー系の構成比が高かった鉄道は、ブルーカラー系が通勤での電車利用率が低いため、余計に定期輸送人員の減少幅が数値上大きくなる可能性があります。

問い合わせ先 info9@tajima-m.com  田島まで

ご協力:ヒストリカルデザイン㈱   田窪正則 氏 Homepage
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